1.共培養効率がNICO-1の方が良い。
理由)セルカルチャーインサートは、上と下の容器の容積が大きく異なります。セルカルチャーインサートは、1:3
程度の容積比であることが多いのですが、共培養効果は、1:1の容積比の時に最も高くなります。それぞれの細胞が分泌する物質が相互に影響しあうことが共培養の目的ですので、あまり知られていませんが、共培養効果は1:1の容積比であるNICO-1の方が高いです。例えば、細胞から分泌されるエクソソームという物質の濃度や移動した個数を比較すると、NICO-1の方がセルカルチャーインサートの2倍の効果であったというデータが得られています。実際、研究に用いている先生方からは、セルカルチャーインサートでは共培養しても変化がなかったが、NICO-1では共培養効果が得られたとのご報告をいただき、現在論文作成中との旨でした。他にも多くの研究所、大学、企業で既に使用されています。
2.NICO-1では、両方の細胞を観察できる。
理由)セルカルチャーインサートでは、顕微鏡の焦点距離が短いという理由で、上方の容器の細胞の状態は観察できません。細胞の状態を同時に観察できることが研究上、とても重要です。セルカルチャーインサートの上方の容器に入れていた細胞について、NICO-1で両方観察したところ、これまで気が付かなかった細胞の変化を見つけたという報告もいただいています。
3.NICO-1では、長時間の培養ができる。
理由)セルカルチャーインサートでは、上方の容器の底面は、フィルターになっています。そのため、細胞密度が高くなると、細胞自体がフィルターの孔を塞いでしまうので、物質の交換が減少します。もともとセルカルチャーインサートは、細胞の浸潤能を測定するために開発された容器で、細胞数が少ない状態で使用することが想定されていました。50年以上前に開発されましたが、以後、他に適当な共培養容器が無かったので、共培養容器として使用されていますが、細胞数が多くなると共培養効果が著しく低下することが知られていません。そのため、細胞数が多くなるような長時間の培養では、実際は共培養効果がほとんど得られていないのですが、それに気が付かず実験されている方が多いと思います。
4.NICO-1では、底面の素材が同一であり、コートも可能である。
理由)セルカルチャーインサートでは、上方の容器の底面はフィルターであるのに対し、下方の容器の底面はプラスチック系の樹脂です。そのため細胞の挙動が素材により大きく異なりますので、厳密な研究では細胞に影響がでてしまいます。それを気にされる研究者もおられます。NICO-1では、両方の底面が同一素材なので、細胞の挙動は同じです。また、コラーゲンコートなどを必要とする細胞があります。そのような場合でも、セルカルチャーインサートでは、コート剤がフィルターの性能に影響を与えるため、底面をコートすることができません。NICO-1では、底面をコラーゲンコート処理しても、共培養効果には影響がありません。
5.共培養効果に関する誤解
多くの研究者が、上の容器の細胞から出た物質が、下の培養細胞の影響を与えるので、水平方向で共培養しても共培養効果が得られないと思っているようです。確かに培地中に沈殿するような物質サイズであれば、重力効果により下方にゆっくり下がっていきますので、物質の濃度勾配が生じ、一方向性の共培養効果になる可能性があります。しかし、細胞が分泌する蛋白質やサイトカイン、エクソソームなどは、そのサイズや重量が小さく、培地中に溶けています。そのため、培地中に均一に広がっていきますので、上下左右関係なく、拡散していきます。NICO-1による共培養効果は、水平方向であっても何ら影響はありません。むしろ、容器同士の容積比が1:1であることの方が有利に働きます。また、長時間の培養でも、フィルターの目づまりが少ないため、共培養効果が持続します。
6.NICO-1では、フィルターを自由に選べる。
理由)セルカルチャーインサートは、フィルターと容器を一体で成型する必要がありますので、どうしてもフィルターは、一番よく使用される孔径及びフィルター数種類しかありません。NICO-1では、13㎜直径のフィルターであれば、市販のフィルターが使用できますので、目的に応じてフィルターを自由に選ぶことができます。
ギンレイラボでは、各種フィルターを確認して、実験に最も適したトラックエッチドメンブレンフィルターを別途ご用意しています。
A:0.03μmサイズ エクソソームやほとんどの蛋白質は通過しないが、グルコースやアミノ酸などは通過するフィルター
B:0.6μmサイズ エクソソームや蛋白質も通過するフィルター。600nmサイズ以上は通過しない。エクソソームや蛋白質の通過性能は、中
C:1.2μmサイズ エクソソームや蛋白質も通過するフィルターで、通過性能がより高い。細胞は通過しないサイズ。エクソソームや蛋白質の通過性能は大
(1.2μm以上の孔径のフィルターでは、1.2μmサイズと通過性能に違いがないことを確認しています。)
7.NICO-1では、連結して多連結での実験ができる。
理由)多連結するための接続用パーツを発売しました。これにより、3連結や4連結での共培養実験ができます。それぞれ連結数が多くなると、横方向での濃度勾配ができます。そのため、共培養度合いによる影響の違いを見ることができたり、複数の細胞の共培養ができる容器となります。間にフィルターを入れることができますので、フィルターの特性を利用することができ、これまでにできなかった新たな実験が可能となります。これらの物質の移動性について評価した結果を論文投稿し、既に公開されています。(Micromachines 2021, 12(11), 1431)Supplementary data ( ZIP-Document) (ZIP, 1193 KiB)
8.セルカルチャーインサートの方が向いている実験について
セルカルチャーインサートは、もともと細胞の浸潤能を見るための容器です。フィルターの上に細胞を置いて、下の容器の培地には、細胞が好む物質を入れておき、細胞が移動し、フィルター通過する細胞数を測定するなどの実験が可能です。このような実験系は、現在のところNICO-1ではできません。そのため、そのような実験目的であれば、セルカルチャーインサートを使用する必要があります。
セルカルチャーインサートが決定的に不利な点について
ほとんど知られていませんが、セルカルチャーインサートを使用して共培養ができるというのは、間違った常識です。弊社の研究にて、セルカルチャーインサートが決定的に共培養できていない証拠となる電子顕微鏡画像データが得られました。縦型の共培養容器は、もはや共培養容器ではありません。今後論文投稿を予定していますので、現時点では詳細は発表しませんが、理屈で考えたら当たり前の結果でした。「細胞が孔を塞いで共培養されていません」が結論です。セルカルチャーインサートでは、共培養効果は限定的です。セルカルチャーインサートでは変化しなかったのに、NICO-1では共培養効果が見られたとのご意見をいただくことが多かったため、もしかしてと思い電子顕微鏡で撮影してみました。結果は明瞭で、細胞がフィルターの孔を塞いでいました。これでは全く共培養効果は期待できません。詳細は今後論文に投稿予定です。
9.共培養での多量スクリーニング系について
NICO-1では、96ウエルサイズのアダプターがありますので、それを活用すれば、8個の共培養が同時に可能です。それ以上のスクリーニングを目的とした共培養実験では、セルカルチャーインサートでは、小さいサイズのものがありますので、スクリーニングが可能です。
現状のNICO-1では、スクリーニング実験にはあまり向きませんが、現在、96ウエルプレートと同じ容積で、共培養を行うことができる容器を開発中です。NICO-48と呼称しています。今年あるいは来年早々に発売を目標として作業を進めていますので、そちらが完成すれば、スクリーニング系の実験にも用いることができます。